慣れというのは

優しくもあり

恐ろしくもある



この気持ちにだって慣れることが出来る

痛くて

切なくて

締め付けてくる

そんな気持ちにだって

あたしは慣れてしまった


慣れてしまったけれど

どうしても涙は出る


変なの

心は前より苦しくないのに


いよいよ神経も狂ってしまったのか

それとも泣くのに慣れてしまったのか




どんなに遅くても

夜中の１１時３０分までには

暗闇があたしを支配しにやってくる


逃げられはしない


爪のすきまからだんだん染み込んで

２分としないうちにあたしは真っ黒になる


これといった痛みは無いけれど

どうしようもなく

取り残されたような気分になる



いつもいつもそれから逃げることばかり考えたけれど


たまには溺れてみようか

心の底まで


染み込んだ黒に

やがてあたし自身が飲み込まれていく

いつしか主体が黒になる


吸い込まれて

吸い込まれて

底は見えない

来た

ネガティブ



あたしは裏切り者だ

嘘つきだ



だからこれからもずっと

ひとりで居続けるだろう



それが報い

それがあたしの業



誰にも愛されず

誰にも救われず


本当のあたしを探しに来てはくれない



しょうがないよ

しょうがないよ



泣くな

ひとりで強く生きなきゃいけないんだから



あたしは

愛されたいとか

そんなことを思っていい人間じゃない


泣くな

泣いちゃだめだ



助けて

助けてと思っても

この声は永遠に届かない

あたしは

誰を信じてる？

誰に任せられる？

誰に頼れる？


もしかしたら

もしかして

本当は

あたしは

誰も･…

好きで好きで

一途にひたすらに

たった一人だけ

どうしても目がそらせなかった



結局何年も前から

あたしはちっとも変わってなくて

あなたの家の扉の前で

延々と迷っている


扉を開ける勇気が無くて

だけどこのまま帰ることも出来なくて


扉を開けて

｢もう来ないで下さい｣

と言われたら？


そんな映像がいつだって浮かんでくる


扉を開けたら

知らない女の子がそこにいて

｢どちらさまですか?｣

なんて言われたら？


嫌な想像ばかりふくらむ



ノックしてみようかな

君は答えてくれるかな


インターホンで

｢何の御用件ですか？｣

って言われたら

なんて答えようか


「あなたといっしょに居させてください

迷惑をかけるかもしれませんが

きっと２人ならもっといろんなことが出来ると思うのです

一緒に歩いてゆきたいのです」


そんな風に言おうかな

少々押し売り気味かしら



わたしがここにいることに

あなたは気付いているかしら？

覗き穴から見えてるかな


気付いてほしいようで

気付いてほしくないようで



とにもかくにも

あなたの玄関の

扉の前

立ちすくんだままいくつもの季節が過ぎました


庭の花も

チューリップ

ひまわり

きんもくせい

咲いては枯れて

いつだって変化し続けました


変わらないのはあたしだけ

あたしだけが飽きもせず立ち続ける

その間に

あなたの家に入っていった子も何人もいて

そのたびあたしはみじめになった

だけど帰れなかった

どうしても

もしかしたら出て行ったあの子達も

まだその辺をさまよっているかもしれない



最後にあの子が家を出てから

きっと誰も入ってはいないはず


今こそノックを

そして言葉を

言わなきゃいけない

伝えなきゃいけない


あたしはつばを飲み込み下唇かんで

暴れだす心臓をなだめようとする



いよいよ来た

決断の

時

　　　　　　あ
　　　　　あ
　　　　
　　　　　　く
　　　　　る
　　　　　　し
　　　　　い